空中像とか疑似ホログラムとかを概観する
実は、私はツナガルダイガクにもボカロ部にさえも所属していない。
なぜ今回ツナガルダイガクのAdvent Calendarに参加したかというと、学祭でARや空中像を使ってミクさんを召喚する展示を有志で行ったから、くらいのものだ。(主催者さんの寛大な心に感謝。ありがとうございます!)
そのメンバーの一人もこのAdvent Calendarに参加していて学祭のことを書くらしいので、気になった方は覗いてみてほしい。
ARでミクさんを召喚!@みくみくわぁるど - どらめも
さて、今回は 疑似ホログラム について記事を書こうと思う。
昨今3Dホログラムと呼ばれるものが増えてきたが、実際の多くは3Dでもなくホログラムでもないということをご存知だろうか? ホログラムと呼ばれるが本物のホログラムとは全く別物といったものを、まとめて「疑似ホログラム(False hologram)」という。
私がホログラム・疑似ホログラムに興味をもったのは、かの有名なバーチャルアイドル・初音ミクに会いたいと思ったのがきっかけである。やっぱりミクさんとリアルで会いたい!!デバイスをつけて画面の向こうに行くのではなく、画面のこっち側に来てほしい!!いつもそばにいて!!ミクさーーん!!(この記事でこれ以上愛を語るのは自重しておく)
今回は、ミクさんになんとかして会えないかと私がこれまで調べてきた疑似ホログラムの情報をまとめておこうと思う。
まとめかたについて
ひとくちに疑似ホログラムといっても色々なものがある。立体像っぽいもの、なんか未来っぽいものを大体まとめてみた(中には全然ホログラムと呼ばれてなさそうなものもあるが)。
それぞれにおいて、以下のことを私なりに示した。
- 正式(なのかわからない)名称
- 簡単な説明
- 自作の難しさ
- 解像度、輝度の高さ
- 視域(物体を観察できる目の範囲や角度)の大きさ
- 実際の使用例など
正確さは保証できないが、参考にしてほしい。
※記事中の画像の引用元は、それぞれの画像に埋め込みリンクとして表した。
虚像を見る
ペッパーズゴースト (Pepper's ghost)
疑似ホログラムの代表例がこちら。見る方向に対して約45度の傾きで透明な板を設置すると、透過された板の向こうに、板で反射した映像が重なって見える、という原理。
画面と透明な板(アクリル板、塩ビ板など)だけあればできるので、初心者でも簡単に自作できる!
スマホを使った嫁召喚装置を自作した方もいる。数十円でできたりするので意欲のある方はとにかくやってみてほしい。
また、ハコビジョンのようなキットも売られている。
平面映像だが、立体っぽい映像を映すことでかなり「そこにいる」感が高まる。また、基本的には透明な板に反射させているだけであるため、解像度や輝度も高く、綺麗な像を見ることができる。視域もそこそこある。
DMM VR THEATER(IAのライブ会場)などで使われている。よく例として挙げられるのは東京ディズニーランドのホーンテッドマンション。
よく「ホログラムを自作しよう!」とうたわれているのはこちら。CDケースを四角錐台になるよう切って組み立て、特別な映像の上に置くと、中央部に空中像が見えるというもの。真横から見なければならないが、ぐるりと回して裏まで見れるのはなかなか感動する。簡単だしおすすめ。
この原理で空中像を表示する商品の1つにHolocubeがある。以下は2008年の動画である。
実像を見る
上記はいわゆる虚像だが、以下の3つでは実際に光が結像している実像の例を紹介する。
ボルマトリクス
凹面鏡を2枚貼り合わせて、上面の一部を切り取ったもの。底においた物体からの光が鏡で反射して、切り取ったところに3次元的に結像する。
凸面鏡を貼り合わせて穴をあける作業が必要なので自作は大変そうだが、お玉を貼り合わせて自作したサイトもある。ただ、小さいものであれば購入できる。マジックスコープで検索。
何度も反射させるため、鏡の反射率にもよるが輝度が落ちる。また、一枚の大きな凸面鏡が必要なため装置の大型化が難しく、小さな実物体を置くのに用途が限られ、自由な映像を出すのは難しい。しかし、そのぶん視域が広く、360度どこからでも像を楽しめる。ただし、真横や真上から見ることはできない。
この装置は科学館などによく置いてある。具体的には、東京都の科学技術館の光ブースや、科学未来館の計算機と科学ブースに常設してある(2019年末現在)。またまたディズニーランドで例えると、ミニーの家の食べられないクッキーとか。
一見、小さい静物にしか使えなさそうなボルマトリクス。しかし科学技術館の展示では、なんと 立体像が動く のだ。ここではコポコポと噴き出す水が底面に設置してあり、つい触りたくなってしまうリアルさを感じられる。
(科学技術館は体験型展示が多く、小学生から大人まで誰にでも非常におすすめの科学館だ。ぜひ!)
再帰性反射材による空中像
再帰性反射材とは、交通標識などに使われる反射材で、光を来た方向と同じ方向に返す性質をもつ。これとハーフミラーを用いて装置を作る。 原理としては、画面から出た光をハーフミラーで下に反射させ、再帰性反射材でもう一度光はハーフミラーに向かい、ハーフミラーを透過して結像する。画面が2次元のため空中像ももちろん2次元。
再帰性反射材もハーフミラーシートもホームセンターで手に入るため自作が簡単!私も実際に以前自作して空中像を楽しんだ。
そのへんの反射材で作ったからくっそ解像度悪いけど、空中ディスプレイ自作しました!手前にうっすらミクさん映ってるでしょ!映ってるよね!?わーい pic.twitter.com/DyOB0bBvg5
— かじぐち@ろぐあうと (@kajiguchi97) May 5, 2019
反射材の性能に依存するが、一般的に解像度や輝度は低い。また、視域がかなり狭く、初見だとうまく見える範囲を模索する必要がある。しかしペッパーズゴーストと違い、装置の手前、触れる場所に結像するのでめちゃくちゃテンションがあがる!間違いない!
AirWitchというキットが売られている(空中像とのインタラクションも可能)。
日本カーバイド工業がディスプレイ用反射材を販売している。
再帰透過光学素子
上記のような空中実像を一つの道具だけで実現するのが、再帰透過光学素子と呼ばれるもの。アスカネットが製造するaska3Dプレートがこれにあたる。画面と面対称な位置に空中像を結像させる。めちゃくちゃ便利。これも画面が2次元のため空中像ももちろん2次元。
微細構造をもつ板のため、自作はおろか、大型化も難しい。買いたいけどめちゃくちゃ高い。6桁円はすると思う。
この前のイベントで見かけたが、解像度も輝度もかなり高い。ただ視域は狭い。アスカネットは赤外線センサもつけて、手による空中像操作を可能にしたデバイスも売っている。
実体のあるスクリーンに映像を投影する
空中像に見えて、実は何かしらの物質に映像を投影しているものを紹介する。
リアプロジェクション
原理は非常に簡単である。半透明のスクリーンに、観客と逆側からプロジェクターで映像を投影しているだけである。スクリーン自体の存在が透明で見えにくいため、空中像とよく間違われる。
この装置、いつも背面にプロジェクターが置いてある。なぜ前面から投影しないのか、考えたことがあるだろうか?
前面から投影しても、もちろんスクリーンには映る。しかし、さらにその後ろの壁にもなんとなく投影されてしまうため、リアルさが薄れてしまう。そのため、基本的には背面である必要があるのだ。逆に、背面から投影しても、映像は透過する。狭い部屋などの場合、観客の後ろにも映像が投影されていたりする!気になったら後ろを振り返ってみるのもよいかもしれない。(目の前に推しがいるのに目を離せるわけないというツッコミにはとても同意する。)
自作の観点だと、小さいサイズならばアクリル板などを立ててリアプロジェクション用フィルムを貼ればできあがりなので、簡単に実現できるだろう。
これはマジカルミライで使われている手法であり、疑似ホログラムの代表例だ。
マジカルミライではDILADボードを用いているらしいが、ファンメイドライブなどでは一般的に比較的安価なポリッドスクリーンを使う(ビニールハウスとかで使われているフィルムだ。これを知ったときには驚いた)。以下は、東京都の電気通信大学で行われたファンメイドライブの様子である。
なんとDILADボードに代わりアミッドスクリーン(ただの網戸)を用いている動画もある。
有名な「嫁召喚装置」ことGateboxもこの方式をとっている。
以下の動画は、フランスの空港でバーチャルエージェントが案内する取り組みが行われたときのものである。人間の形に切り取った透明なスクリーンに背面から映像を投影している。
こちらは、鏡を介して内側から円筒表面に映像を投影しているもの。装置を見ている人間の場所を検知して投影映像を変えている。
[SIGGRAPH]ソニー,360度表示可能な円筒形透明ホログラムディスプレイを発表 - GamesIndustry.biz Japan Edition
霧・煙スクリーン
空中とはいえ、何かしら拡散・反射してくれる物質がないと映像は投影できない。ここでは、霧や煙に映像を投影する。大規模な空中映像を投影するのにはとても便利だ。
自作に関していえば、継続的に一様な霧や煙を生成することが重要であるため、少し難しいと思われる。それなりのものであれば簡単にできそうだ。
スクリーンが均一ではないため、解像度はあまり高くない。すべての光が水滴等に当たるとは限らないため輝度も低い。視域に関しては、真横でない範囲である程度見えると思われる。
霧スクリーンは東京ディズニーリゾートのメインショーなどで用いられている。大きな映像を投影し、迫力のあるショーになっている。アトラクションでいえば、ディズニーランドのカリブの海賊などにも使われている(と思う)。
こちらはDisplairという商品である。
そしてこちらはheliodisplayという商品。
超音波で極小物を浮遊させる
超音波で大量のマイクロビーズを制御し空中浮遊させ、それにプロジェクションする。
超音波装置が必要になるため、自作は難しいだろう。
解像度は動画を見る限りかなり低いように見える。マイクロビーズの密度に依存しそうだ。視域はマイクロビーズが見える範囲であるため、そこまで広くない。
こちらはPixie Dustという作品である。
画面自体を透過させる
ここまで、画面から出た光を結像させたり、物理的なスクリーンに投影していたが、画面自体を透過させようというのが以下の例だ。
透過ディスプレイ
テレビを分解したことはあるだろうか?テレビのバックライトを取り除けば透過ディスプレイになる。光源は別に必要となる。 2次元ディスプレイではあるが、映像を工夫すれば立体に見える。
そのへんで中古テレビを買ってきて丁寧に分解すればすぐに楽しめる(ただ、部品が繊細なため器用さが必要だ)。記事も多く書かれているため各自参考にされたい。以下はその一例。
普通のモニターを透明にしただけなため、解像度はモニターそのままで大変高い。一般的に透明度と輝度はトレードオフである。
通常は表からのみ映像が見える。また、あまり角度をつけて見ると平面映像であることが強調されるため、立体に見える視域はそこまで広いわけではない。
表から見えるもの
テレビの光源部分を除去したもの。透過液晶MOD PCが有名。
これがPCのサイドパネルだなんて。
— いぷ茶@C4参加する (@ippupu_ava) October 14, 2017
信じられる?#自作erオフ会 pic.twitter.com/S0kE1lm9sM
裏からも見えるもの
JDIが開発しているのを見たことがある。カラーフィルタや偏光板を使わないことで両面から映像が見えることを実現している。
原理など、詳しくはこちらの記事へ↓
JDI、2つの新規開発ディスプレイを披露--マイクロLEDと透明液晶 - CNET Japan
残像を見る
n次元のものを高速に動かし残像を見せることでn+1次元を表現する。
高速に動く機械的な部分を作ること、画像を切り替える周波数が十分な映像を用意することができれば、自作も可能だろう。1→2次元は(自転車のタイヤのスポークなど)自作をよく見るが、2→3次元はなかなか見ない。
解像度はそこそこある。装置自体が発光LEDである場合、輝度は十分ある。ただし、どれも高速に動いており、安全性には十分に配慮しなければならない。
面積走査
まず最近ではよく見られるようになった回転式ディスプレイPhantomを紹介する。これは四本の棒にLEDが並んでおり、これが扇風機のように回転する(私は扇風機ディスプレイと呼んでいる)。近づくと危ないので周りにバリアを張ったり、手の届かない場所に設置することが必要である(丸いバリアを張ると、占いの水晶玉のようにその中に浮かぶ映像のように見えるため、空中像らしさがあがったりする)。
体積走査
こちらは、360度映像を適当に分割してミラーに映し、ミラーを高速回転させることで3次元のように見せている例。
レイア姫をめざして――360度どこからでも見られる立体映像ディスプレイ - ITmedia NEWS
SIGGRAPH 2007 - EMERGING TECHNOLOGIES展示セクションレポート(後編) (4) 360°立体視ディスプレイ | マイナビニュース
そしてこちらは、オーストラリアのVoxon社による、平面映像が映るスクリーンを高速で上下に動かすことで3次元のように見せている例。つい最近話題になった。
Viewing DICOM files from CT or MRI in true 3D, viewable from all angles, right in front of you without glasses.... yes it's possible! If at #RSNA19 comes and say hi and check out the tech :) #3D #Chicago pic.twitter.com/jruhsDa4Dw
— Voxon Photonics (@voxonphotonics) December 1, 2019
真の3次元映像
2次元映像に立体感をつけたり、残像で3次元に見せたりといったものを紹介してきたが、最後に「空中で発光させればよくね?」という単純明快なコンセプトの例を紹介する。
レーザでプラズマを発生させる
レーザを照射し、酸素や窒素をプラズマ発光させている。プラズマを発生させるほど強いレーザが必要なため、自作は厳しいだろう。
基本的にドット表示のため、解像度は低い。しかしその場で3次元的に発光しているため、視域は非常に広く、ほぼ全域だと思われる。
水中にレーザを照射して任意の5万点を表示できるようにした例。
大きな映像を屋外で描写している例。
こちらはさらに、フェムト秒レーザを用いて触ることも可能にした例である。Fairy Lights in Femtosecondsという。
超音波で発光体を浮遊させる
超音波で極小LED光源を浮遊させたうえで、コイルの作る磁場によってLEDに電力を供給して光らせるというもの。さわれる空中ディスプレイを目指して開発されたらしい。
まだ高速に動くわけではなく、映像の投影は難しそうだ。
まとめ
いや、いま12/18の23:48にあとがきを急いで書いているのだが、ちょっと書きすぎた感じがする。だってスクロールバーがこんなにちっちゃくなっちゃって……あらまぁ……
なんなら本当は、これに加えてxRと裸眼立体視の仕組みについても書こうとしてた。ごめんなさい。ロード時間めちゃくちゃ長くなりそうなのでやめる。動画をたくさん埋め込んだから色々見てみてくださいね。
今回のトピックだが、筆者かじぐちはそこまで詳しいわけではないし、調べたものもかなり化石になっていると思われる。なんか間違いがあったら遠慮なく言ってほしい。Twitterは@kajiguchi97。
ではまた今度、裸眼立体視のほうもあげたいと思ってるので、その時はぜひ読みに来てくださいな!!!
参考文献: